クラブキノタケ。
そこは楽園でありながら、一歩間違えば地獄への入り口と化す魔境。
美しい顔の男、そして一部の女性を始めとしたホスト達によってここは成り立っている。
そんなホストキノタケの開店前には、色々な準備をしている。
メイクや衣装の確認、イベントデーには様々なコスプレをするからだ。
そんな中、一人の男が山ほどの食料や飲み物をもって出勤してきた。
「皆、腹は減ってないか?喉は乾いてないか?差し入れ、持ってきたぞ」
本名アコモ・デートラック、源氏名はCLIME(クライム)。
直訳で罪という源氏名でありながら、そうしてみんなを世話するように動くさまは、「パパ」という名称が似合う。
「レンツォ、君は紅茶が好きだっただろう?昨日実家から高級茶葉が届いたから入れてあげるよ。
ついでに紅茶に合うクッキーも持ってきた。このクッキーはビターチョコ風味だからほろ苦くていいだろう」
「いつもすみません。ありがたく、いただきますよ」
「はは、世話になってるのはこちらも同じだからね。一気飲みを止めてくれるお礼さ」
まず最初に、現時点でナンバーワンの称号を誇る男、RENZO(レンツォ)…本名はレンツォ・テッラノーヴァ。
彼はまず顔がいいうえに、時々お忍びでとある国の要人がお客としてやってくるとんでもないやり手のホストだ。
彼が以前紅茶が好きだと言っていたことを覚えていたために、実家であるブリテンから届いた新品の茶葉を取り出し、その場で入れ始める。
お湯も事前に用意してたのか、数分後には熱いアールグレイと優しいチョコレートカラーのクッキーを皿に乗せて手渡す。
「次は…アダム、おいしいと有名なお店のバケットサンドを買ってきたよ。
どれがいいかわからなかったから、チキンサンドとサーモンサンド、フルーツサンドの三種類を買ってきたよ」
「ありがとう、買いにいく機会がなかったから、助かったよ。今度お返しするよ」
「別にいいさ、私が好きでやってることだからね」
次にADAM(アダム)…本名ロミー・ブレイズマン。
同じ国出身でもあり、比較的話すことも多い相手だ。
美味しいものが好きだと公言していた上、いつも忙しそうに働くアダムがおいしいものが食べに行けないと嘆いていたことをしっていたクライムは、
出勤する際にたまたま通りかかった店で買ってきたバケットサンドを見せる。
ぶあついチキンをレタスとトマトで挟み、香ばしいバジルソースがかけられた食欲をそそるチキンサンド。
レタスの間に挟まれたサーモンと玉ねぎのマリネの色合いが綺麗なサーモンサンド。
優しい甘さを持ついちごやマンゴー、リンゴやオレンジなどの様々なフルーツを生クリームでコーティングしたフルーツサンド。
それらをさっぱりとしたハーブティーと共に用意して渡す。
「さて、クロウ。いつも通りエナジードリンクを複種類買ってきたよ。
働くのはいいんだが、あまり無茶しちゃだめだよ。エナジードリンクもほどほどにね。」
「…ありがとうございます。でも、クライムさんには言われたくないですね…」
「ははは、違いない。まあ、お互い無茶しないようにね」
3番目に声をかけたのはCLOW(クロウ)…本名クロエ・ジェッタ・ブラック。
彼は普段はネガティブで対人を苦手とする性格だ…が、エナジードリンクを摂取した際は一変してテンションの高い、ホストらしいホストになる。
その為、彼はエナジードリンク依存症となっており、店に常備しているエナドリのほとんどを消費している。
クライムも社畜と名高いためか、どこか親近感を覚えている。
そんな彼が愛用するエナジードリンクのほかに、新商品や体に優しいタイプのエナジードリンクの缶のはいった袋を手渡す。
「えっと…ベルくん、君は確か甘いものが好きって言ってたよね?いつも大変そうだし、差し入れ買ってきたよ。
甘いものにも色々あったから、マカロンからチョコレートまで、アソートセットでそろえたけど」
「えっ、…いいのか?じゃあ、ありがたく……」
4番目に声をかけたのはBELLE…本名ベルガモット・グランツ。
この店の現ナンバーツーで、女性だけではなく一部の男性からも人気があるホストだ。
トメニア出身で、ブリテンとは非常に仲が悪いとされているためか、声をかけられるとは思ってなかった様子。
それを気にせず、クライムはマカロンやチョコレートの甘い菓子から、ほんのりビターなクッキーまでそろえたアソートセットの箱を手渡す。
「今日はとりあえずいるのはこんだけか。まだ来てない面子には後で差し入れするか…」
そういってクライムは差し入れがたっぷりと入ったバックを見つめながら、冷蔵庫にしまったり棚に置いたり、
机の上にみんなで食べられるように設置したりとせわしなく動く。
「……クライムさんって、黒服以上に働きますよね」
「オレ絶対無理だわ」
「彼らしいっちゃらしいけど」
「…僕以上に無茶してますよね………」
そんな彼の姿をみた、差し入れされた四人はなんとなしにその様子を眺めながらそれぞれ思ったことをつぶやいた。