「これは訓練です!」
外からそう響く声が聞こえ、気になって覗いた。
外に見えるのはルームメイトのメルヴィ、そしてその恋人であるハロルドだった。
それだけならまだ気になるものではなく、本を読む作業に戻ったけれど…
目に入ったのはメルヴィがハロルドに横抱き…いわゆるお姫様抱っこをされている光景だった。
いや、これは気になるでしょ、お姉さんも女だからさ。
「………二人はここがいつもの施設じゃなくて、滞在先だって知ってるのかしら」
仕事もひと段落し、本も何度も読んで覚えてしまっていたアタシは、
気晴らしとあの甘すぎるカップル二人にくぎを刺すという名のからかいをしようと席を立った。
すでにお姫様抱っこをやめてないか確認しようともう一度窓を見れば、
なぜかメルヴィを抱えたまま、ハロルドは建物の周りを走り出したようだ。
訓練ってそういうことなの?
面白くて思わず笑みをこぼしながら、部屋から出たアタシは、そのまま二人の元へと向かう。
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二人がいたエリアに向かって下に降りてみれば、
丁度「訓練」が終わったとこらしいハロルドが、
笑顔でメルヴィに「楽しいですねー」って語りかけていたところだった。
そっとマクガフィンの収容で培われた忍び足でそっと物陰に隠れて様子を見てみれば。
「…あらあら、お熱いことで」
見えたのは顔を真っ赤にしたメルヴィの表情と、
その顔に衝撃を受けてつられたように顔を赤らめているハロルド。
本当、あの子たちはここが祖国にある施設ではなく、天照だってこと忘れてない?
あとこれを見た何人かは絶対からかいそうだなぁと思いながらほほえましく見てれば。
「え?メルヴィ?」「メルヴィさん?」「メル?」「顔を見せていただけませんか?」
あまりに恥ずかしいのか、顔も耳も真っ赤にしているメルヴィは両手で顔を隠しており。
その元凶である彼はちょっとうれしそうに見ようと必死に声をかけている。
我慢ができなくなったアタシは、思わず「ふふっ」っと声を漏らしてしまった。
警備員で他人の気配や物音に敏感な二人は即座にこちらに気付き。
アタシも気付かれたとわかったのでそのまま出てきてみれば。
「……あ、アコモさん?」
「……………もしかして、見ていらしたか…?」
ぎぎぎと、まるでさびたブリキの様な擬音が聞こえそうな動きでアタシを見る二人。
唖然としたあとに、そっとアタシにそう聞いてきたので。
「見てたよ。今のかわいらしい青春のワンシーンだけじゃなく、最初のバカップルっぷりも」
「「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!」」
笑顔でそう答えてやった瞬間、普段の二人では聞かない大声が響き渡る。
どうやら、二人だけの世界から戻ってきたせいで、正気付いてしまったようだ。
このままからかってもいいのだが、先に一応くぎを刺すところをさしておこうか。
「うんうん、仲がいいことは結構だ。けど君たち。
ここが祖国の、それも君たちを知っている財団メンバーしかいない施設内ではなく、
天照の滞在場所だということを忘れちゃだめだよ。
いちゃいちゃするなら部屋でやるといい」
「いいいいいちゃいちゃなぞしておりませぬ!!!!」
「そ、そうですよ!!!こ、これは訓練ですから!!!!」
アタシの言葉で慌てた様子で言い訳する二人。
いちゃいちゃしていないと言いながら、メルヴィはお姫様抱っこを甘んじて受けてるし、
ハロルドもやめる気はない様子だ。やだ、この二人をからかうの、楽しいわ。
「ふふ、まあでも仲がいいことは結構なことだよ。今は君たちも休む時間なんだろうしね」
「だ、だからこれは」
「はいはい、訓練だろう?でも、訓練と言い張ってもそう顔を赤くしてれば、ねぇ?」
くすくすと笑いながらあたしがそういえば、メルヴィは言い繕うとしてか、
あわあわと言った様子でどもりながら言い訳を繰り返そうとする。
それに先んじて、言葉をとったうえで証拠を突きつければ。
「……………」
メルヴィは完全に黙り込んでまた両手で顔を覆って隠した。
ハロルドもすごく照れ臭そうにアタシから必死に目をそらして、冷や汗をかいている。
「いやはや、本当君たちは」
犬も食わない、ラブラブカップルだな。
そうあたしがいった瞬間の二人の表情は、最高に愉快なものだった。